動的荷重の作用下でのシステムの応答は、しばしばモーダル解析結果の重ね合わせで得ることがあります。CAESAR II では、特に スペクトル解析 (Spectral Analysis) を用意しています。モーダル解析の利点の1つは、通常は限られた数のモードでの応答が卓越し、それらのモードの考慮が必要になります。一方、欠点としては、変位は低次の振動数モードで精度よく得られるものの、荷重、反力、応力は妥当な精度を得ようとするより多くの振動モード、できれば剛体モードまでの抽出が必要になるということです。喪失質量 (Missing Mass) オプションが用意されており、モーダル解析では陽な形では得られない高次モードの疑似静的寄与を表す補正ができます。このようにして、短い計算時間でかなりの精度の結果を得ることができます。
線形の多質点系の動的応答を次の式で決定します:
Ma(t) + Cv(t) + Kx(t) = F(t)
ここで:
M = n x n 系の質量マトリックス
C = n x n 系の減衰マトリックス
K = n x n 系の剛性マトリックス
a(t) = n x 1, 時間依存加速度ベクトル
v(t) = n x 1, 時間依存速度ベクトル
x(t) = n x 1, 時間依存変位ベクトル
F(t) = n x 1, 時間依存荷重ベクトル
調和振動における運動方程式は、減衰を無視したシステムの自由振動固有値問題として次のように表すことができます。
KF - MF w2 = 0
ここで:
F = n x n 振動モードマトリックス
w2 = n x n 直交成分が対応する角固有振動数の自乗のマトリックス
モードマトリックス F は、FT M F = I (ここで、I は n x n の単位マトリックス) と FTK F = w2 で基準化されています。
モードマトリックス F は2つの部分マトリックスに分けます:
F = [ FeFr ]
ここで:
Fe = 動的解析で抽出されたモード形状 (すなわち、低次の振動モード)
Fr = 剛体応答として残りの抽出されないモード形状、あるいは喪失質量に寄与分
抽出されたモード形状は残りのモード形状に直交していますので、次のようになります:
FeT x Fr = 0
変形成分はモードの線形合成で次のように表すことができます:
x = FY = Fe Ye + Fr Yr = xe + xr
ここで:
x = システムの全変形
xe = 抽出したモードのシステムの変形
xr = 残りのモードのシステムの変形
Y = 一般化したモードの座標
Ye = 抽出したモードの部分 Y マトリックス
Yr = 残りのモードの部分 Y マトリックス
動的荷重は、同様な形で次のように表すことができます:
F = K F Y = K Fe Ye + K Fr Yr = Fe + Fr
ここで:
F = システムの全荷重ベクトル
Fe = 抽出したモードのシステムの荷重ベクトル
Fr = 残りのモードのシステムの荷重ベクトル
Y = 一般化したモードの座標
Ye = 抽出したモードの部分 Y マトリックス
Yr = 残りのモードの部分 Y マトリックス
通常、モーダルの重ね合わせ解析では、Fr によって生ずる変位 Xr すなわち完全に剛体応答は無視しています。抽出されないこの応答は、静的荷重 Fr でのシステムの変位から得られます。上記の関係から、Fr は次のように推定されます:
F = K Fe Ye + K Fr Yr
両辺に FeT を乗じて、FeTFr = 0 であることから、次の式を得ます:
FeT F = FeT K Fe Ye + FeT K Fr Yr = FeT K Fe Ye
we2 に FeT K Fe を代入して、Ye を求めます:
FeT F = we2 Ye
Ye = FeTwe-2 F
残りの荷重は、次のようになります。
Fr = F - K Fe Ye = F - FeT K Few e-2 F
次のようになることから
FTM Fw2 = I w2 = FT K F
FeT MFewe2 に FeT K Fe を代入して次のようになります:
Fr = F - FeT M Fewe2 we-2 F = F - FeT M Fe F
したがって、CAESAR II では残りの応答は喪失質量寄与分に含まれ、次の手順で計算します:
-
喪失質量荷重は個々の衝撃荷重に対して次の式で計算されます:
Fr = F - FeT M Fe F
荷重ベクトル F は:
-
荷重スペクトルの荷重セットのベクトルと剛体 DLF の積で表されます。
-
非 ISM 地震荷重では、質量、ZPA と方向ベクトルの積になります。
-
また、地震固定移動荷重では単位 ISM 構造変位での質量マトリックス、ZPA と変位マトリックスの積になります。
喪失質量は、ユーザーの抽出したモードの数によって変わりますし、カットオフ振動数によっても変わります。もっと限定的には、DLF、あるいはカットオフ振動数と一致する加速度によって変わります。剛体DLF、あるいは ZPA を決定する「剛体」は、設定パラメータによってユーザーによって設定されます。これらは、抽出される最後のモードに対応する DLS/加速度、あるいは正しい DLF/ZPA に対応します。ZPA は入力スペクトルの最大振動数に対応しています。
-
-
喪失質量荷重は、静的荷重のように構造物に作用します。静的構造物応答は、あたかもモーダル応答のように動的に増幅した応答と、ユーザーの指定した方法で合成されます。実際に、この静的応答は抽出していない応答の代数和となり、剛体モードで予想される同位相での応答を表しています。
-
喪失質量データ (Missing Mass Data) レポートは、喪失質量の処理の有無にかかわらずすべての衝撃荷重ケースに出力されます。有効質量のパーセントは次の式で表されます:
% 有効質量 = 1 - (å Fr[i] / å F [i])
summed over i = 1 to n, ここで、n は考慮したモード次数です。
想定される最大パーセントは理論的に 100%となりますが、数値的は不正確さが幾分高めの値になることがあります。喪失質量補正係数を含んでいる場合には、補正を含んだ有効質量のパーセントを同様に出力します。
CAESAR II の手順は、喪失質量の補正は剛体モードの寄与を含んでおり、ZPA は抽出したモードの最後の振動数での縦軸の値になりますので、ユーザーの抽出するモードは、「剛体」振動数とあまり離れていない振動数までとることが推奨されます。下図の (1) 以下のようにカットオフ振動数をスペクトルの共振ピークの左で選択すると、共振応答が見逃されることにより非安全側の結果を示します。下図のピークを超えて (2) のようにカットオフ振動数がピークの右側でも共振領域にあれば、安全側の結果になります。ZPA/剛なDLF は過大に推定されていることによります。下図の (4) のように動的応答の計算に剛体モードの多くを抽出することは、安全側になります。すべての利用可能なモード合成 (SRSS、GROUP、ABS など) は、より現実的な剛体モードの正味の応答を表す代数的加算よりも安全側の結果を与えます。次の図に示す応答スペクトルから、モードの抽出の適切なカットオフ振動数は 33Hz (3) となります。